特別寄稿

稲森亘航海日記

「稲森亘・航海日記」の著作権は「稲森亘」氏に帰属します

 

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 稲森亘航海日記

■1:新米通信士

■2:8千屯の貨物船

■3:新米局長

■4:ペナン島で・・

■5:パイロット・・

■6:太平洋の真ん中・

■7:父の死は

■8:ウミネコ売りと・

■9:マダカスカル島に

 

                  【ペナン島で冷凍えびを船積みせよ

                          第四話

バリバリと入ってくる自船のコールサインは、シンガポールの中波局の一括呼び出しの時間ではなかった
500KHzの周波数は、国際遭難通信と一般呼び出しに使われている。

JOSで通信を担当していた時もそうであったが、自局の通信圏内にいる全ての船舶を把握している。

その為には、各船舶は、入圏通知と出圏通知が義務付けられている。その方法は本船がその海岸局の通信圏内に入る予定日時
通信圏内を出る日時、行き先などを通過する圏内の海岸局に知らせるのである。

順序としては先ず通過するであろう圏内の海岸局に入圏通知をし、その直ぐ後で現在通信圏内である海岸局に出圏するのである。

 各海岸局はその通知を把握した上で、手持ちの無線電報を送信する。
その為に定時の呼び出し(特に短波海岸局(JOS、JCSなど)では先ず、自局の圏内に船舶が居るかどうかを確認し、
いると推
測できれば定時呼び出しでコールサインのリストに入れる。

もし、中波局であれば、500KHzを使って先ず呼び出してみる。
船舶が応答すれば、直ぐに周波数を通信周波数に変えて、電報の送受信が始まる。
船舶が応答しなければ、定時の呼び出しリストにその船舶のコールサインを入れる。

 おおむね、全世界の海岸局はこのような方法で、無線電報の送受信をおこなっていた。

500KHzは、国際遭難周波数であるから通信士がワッチ(仕事中)であれば必ず、受信機を500KHzに合わせて傍受している、

この周波数が呼び出し周波数を兼ねておれば、いやおう無くワッチしている通信士の耳に聞えてくる。

  さて、 我が船をシンガポールの現在仕事をしている通信士が、縦振り電鍵かバックキーで送信しているのであるかは、わからないが、
不定時に呼んでいるのである。

  私は、すぐさま500KHzで応答する。
相手である海岸局は、通信周波数を指定してくる(4百何KHzか
忘れてしまったが、海岸局局名録があるのでそれを見れば分かるが)指定された周波数に換える。

大体、QTC1 QSW 4○○ と言ってくるのである。こちらは、 OK QSW

 と答えて、周波数を変えると、すでに大体海岸局が自局のコールサインで呼んでいるのが常である。

周波数を変えるのはスイッチボタンを押せばいいが、受信機は混信(QRM)などがあり、相手が相当にパワーが大きくなければ、バリバリとは入ってこない。

つまり、受信機の周波数を相手の言う周波数に同調(合わせる)するのは、比較的時間がかかるのである。

電報形式は、欧文電報の平文形式を思い出していただければいいと思うが、何せ、横文字である。

 一応資格は上級であるが、英語なんて、とても駄目、それでも電報の内容をそれなりに把握する事に勤める(船長に渡せばいいだけのことであるが・・・。内容を把握する必要は通信士にはない、機械的に受信して船長に渡すまでが、通信士の仕事である)

 でも、一番最初に情報を入手する立場にある通信士としては、やはり、内容は知っておくべきである・・・

(それは、私の見識)

だけど、「なに人も、通信上知りえた・・・・」の電波法の罰則があるので、口外は絶対にしない!

 本船は、一度、シンガポールに入港してそれからペナン島に向かう段取りとなった。
悲しいかな岸壁なんて物は大企業の物であり(例えば、日本郵船、商船三井など大手の会社)我々のような会社の船は
(しかし、大遠冷蔵は、私が誇りとしていた会社でありました事をここに明確にしておきます)

岸壁の形すら見えない、遥か沖に停泊し、サンパンと呼ばれるモータボートのような乗合船が現地代理店により準備され
同じ沖に停泊する船の間を通勤バスのように、1日に2〜4回ほど通うのであります。

 だから、岸壁づけの船のようにタラップを降りると、そこは陸地であった。
なんてことは、全然ない。

タラップをおりると、そこは紺碧の海だった。 ・・・が現実でした。

 船員の上陸はサンパン任せ、脳裏にうかべてみて下さい。
「もう少し飲みたいな!」、「だけど、終電車が出てしまう」・・・ あの心境です。

 それが、午後3時には本日の最終便がでます。 とタラップの出口にチョークで殴り書きされた小黒板をみるとき、

一抹の寂しさを胸に抱く私でありました。

 次回:なかなか来ぬパイロットに船長は困り果て、私は、投光器を準備させ・・・!  をお送りします。